熊本地方裁判所 平成8年(行ウ)1号 判決 1998年12月17日
熊本市大江二丁目一九番二二号
原告
長尾泉
右訴訟代理人弁護士
矢野博邦
熊本市東町三丁目二番五三号
被告
熊本東税務署長 緒方茂三
右指定代理人
山之内紀行
同
和多範明
同
武田節夫
同
白浜雅春
同
境野義孝
同
今村久幸
同
田川博
同
鈴木吉夫
同
福浦大丈夫
主文
一 原告の請求をいずれも棄却する。
二 訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
第一原告の請求
一 被告が、平成四年一二月一八日付けでした原告の昭和六三年分所得税の更正のうち総所得金額一〇二万七三三七円、納付すべき税額一万七三〇〇円を超える部分並びに過少申告加算税及び重加算税の各賦課決定、平成元年分所得税の更正のうち総所得額一〇五六万三八二八円、納付すべき税額六四一万九〇〇〇円を超える部分並びに過少申告加算税及び重加算税の各賦課決定、平成二年分所得税の更正のうち総所得額三九五万三二九四円、納付すべき税額九〇三万人二〇〇円を超える部分並びに過少申告加算税及び重加算税の各賦課決定、及び平成三年分所得税の更正並びに過少申告加算税及び重加算税の各賦課決定(ただし、いずれも審査裁決により一部取り消された後のもの)をいずれも取り消す。
二 被告が平成四年一二月一八日付けでした原告の平成元年課税期間(平成元年四月一日から同年一二月三一日まで)の消費税の更正のうち課税標準額一億〇六九九万四〇〇〇円、納付すべき税額六四万一九〇〇円を超える部分及び重加算税賦課決定、平成二年課税期間(平成二年一月一日から同年一二月三一日まで)の消費税の更正のうち課税標準額八三二三万五〇〇〇円、納付すべき税額四九万九四〇〇円を超える部分及び重加算税賦課決定、平成三年課税期間(平成三年一月一日から同年一二月三一日まで)の消費税の更正のうち課税標準額六五五五万七〇〇〇円、納付すべき税額三九万三三〇〇円を超える部分(ただし、いずれも審査裁決により一部取り消された後のもの)をいずれも取り消す。
第二事案の概要
一 争いのない事実
1 原告は、ビジネスホテル及び不動産仲介業を営む者である。
2 所得税関係
(一) 原告は、昭和六三年分、平成元年分、平成二年分及び平成三年分(以下、これら四年分を併せて「本件各係争年分」という。)の所得税について、青色の確定申告書に別紙1の各確定申告欄記載のとおり記載して、いずれも法定申告期限までに確定申告した。
(二) これに対して、被告は、本件各係争年分の所得税の青色確定申告には売上除外等が認められ、所得税法一五〇条一項三号所定の青色承認取消し事由、国税通則法二四条、二七条所定の更正の事由、同法六五条所定の過少申告加算税の賦課事由及び同法六八条所定の重加算税の賦課事由が存在するとして、平成四年一二月一一日付けで、原告に対し、昭和六三年までさかのぼって青色申告の承認を取り消す(以下「本件青色取消処分」という。)とともに、同月一八日付けで本件各係争年分の所得税について、別紙1の各更正処分欄記載のとおり各更正(以下「本件各更正(一)」という。)し、同棚各記載のとおり過少申告加算税及び重加算税の各賦課決定(以下「本件各賦課決定(一)」という。)をした(以下、本件各更正(一)及び本件各賦課決定(一)を併せて「本件所得税の更正処分等」という。)。
(三) 原告は、本件青色取消処分及び本件所得税の更正処分等を不服として、平成五年一月二六日に被告に対し異議申立てをしたところ、被告が同年六月一日に本件青色取消処分についての異議申立てを棄却し、同月四日に本件所得税の更正処分等に対する異議申立てを棄却したため、原告は、本件所得税の更正処分等について同月二八日、国税不服審判所長に対し審査請求をしたところ、同審判所長は、平成七年一〇月二七日付けで別紙1の各審査裁決欄記載のとおり本件所得税の更正処分等をそれぞれ一部取り消す旨の裁決をし、右裁決書の謄本は平成七年一一月一〇日、原告に送達された。
なお、原告は、本件青色取消処分については審査請求をしなかった。
3 消費税関係
(一) 原告は、平成元年四月一日から平成元年一二月三一日まで、平成二年一月一日から平成二年一二月三一日まで及び平成三年一月一日から平成三年一二月三一日まで(以下、順次「平成元年課税期間」、「平成二年課税期間」、「平成三年課税期間」という。以下これらを併せて「本件各課税期間」という。)の消費税について、消費税法三七条(中小事業者の仕入れに係る消費税額の控除の特例)を適用した確定申告書に別紙2の各確定申告欄記載のとおり記載して、いずれも法定申告期限までに申告した。
(二) これに対して、被告は、本件各課税期間分の消費税の確定申告には売上除外等が認められ、国税通則法二四条、二七条所定の更正の事由及び同法六八条所定の重加算税の賦課事由が存在するとして、平成四年一二月一八日付けで本件各課税期間の消費税について、別紙2の各更正処分欄記載のとおり各更正(本件各更正(二)という。)するとともに、同欄各記載のとおり各重加算税賦課決定(以下「本件各賦課決定(二)」という。)をした(以下、これらを「本件消費税の更正処分等」といい、本件所得税の更正処分等と本件消費税の更正処分等とを併せて「本件課税処分」という。)。
(三) 原告は、本件消費税の更正処分等を不服として、平成五年一月二六日に異議申立てを行ったところ、被告が同年六月四日付けでこれを棄却したため、同月二八日、国税不服審判所長に対し審査請求をしたところ、同審判所長は、平成七年一〇月二七日付けで別紙2の各審査裁決欄記載のとおり本件消費税の更正処分等をそれぞれ一部取り消す旨の決定をし、右裁決書の謄本は平成七年一一月一〇日、原告に送達された。
二 被告の主張
本件各更正(一)及び(二)は、原告の本件各係争年分のホテル業に係る収入金額を推計して行われたものであるところ、本件においては、以下のとおり推計による課税が必要であり、推計の方法も合理的であるから、本件各更正(一)及び(二)は適法であり、したがって、本件各賦課決定(一)及び(二)も適法である。
1 調査の経緯
(一) 原田上席調査官及び河野上席調査官他二名の熊本東税務署員(以下「調査官ら」という。)は、所得税及び消費税調査(以下「本件調査」という。)のため、平成三年一〇月八日、不動産仲介業の事務所を兼ねている原告方及び原告が経営するビジネスホテル「シャトル」(以下「本件ホテル」という。)へ赴いた。河野上席調査官他一名の調査官らは、原告方において原告の妻であり、かつ青色事業専従者である長尾美代子(以下「美代子」という。)に会い、また、原田上席調査官他一名の調査官らは、本件ホテルにおいて、青色事業専従者である原告の長女の長尾令子(以下「令子」という。)に会って、原告のホテル業及び不動産仲介業に関する帳簿書類の提示など、調査についての協力を求めた。
しかしながら、美代子は原告の不在を理由に調査に協力しようとせず、令子も帳簿書類を提示しなかったことから、調査官らは、令子から原告の事業の概況を聴取したのみで、帰署せざるを得なかった。
(二) 調査官らは、同月九日原告方へ赴いて、原告、美代子及び田中一隆税理士に会い、原告のホテル業及び不動産仲介業の取引に関して作成された書類並びに原告の青色確定申告の基になった帳簿の提示を求めたところ、美代子は、保存している帳票類は現金出納簿、総勘定元帳、入出金伝票及び領収証綴りのみであり、請求書及び納品書等は保存していない旨申し立てた。また、美代子は、本件ホテルの収入日報及び予約表等は毎日作成するが、右調査日現在、保存しているのは、平成三年一〇月一日以降のもののみで、同年九月三〇日以前のものは全て破棄した、予約カードや部屋割表は全く保存していない旨申し立てた。そして、原告は、調査官らに対し保存していると述べた期間の収入日報と予約表は提出したものの、それ以外の帳簿類は提示しようとしなかった。
(三) 調査官らは、本件ホテルの収入に関して提示された平成三年一〇月一日から同月八日までの収入日報と同月一日から同月七日までの予約表とを照合したところ、別紙3のとおり予約表に氏名が掲載されていても、収入日報にはその氏名や宿泊金額の記載がなく、結果的に売上げとして計上されていないものは、同月一日が四名、同月二日が人名、同月三日が八名、同月四日が五名、同月五日が六名であって、その合計は三一名にのぼった。
調査官らは、右三一名について、氏名等の記載に基づいて連絡をとり、それぞれ本件ホテル使用の事実の有無を確認したところ、実際に本件ホテルに宿泊していたのに収入日報に計上されていないものは、別紙4のとおり同月一日が一名、同月二日が二名、同月三日が三名、同月四日が二名、同月五日が二名であって、合計一〇名については本件ホテルの宿泊料が正当に売上げに計上されていない事実が判明した。
したがって、原告のホテル業については、そもそも不正確な収入日報に基づいて現金出納帳を作成しており、更にこれを基に総勘定元帳を作成したうえで青色確定申告をしていることから、本件各係争年分の所得についてホテル収入が除外されていると疑わざるを得ない状況であった。
(四) また、原告の不動産仲介業についても、アパートの入居者について調査検討をしてみたところ、本件各係争年分ともに仲介手数料収入の計上漏れ等があり、更に、不動産売買については、取得原価を算出するにあたり、領収証の改ざん、架空の人物を使っての領収証等の発行による造成費及び立退料等の水増し計上の事実が判明し、本件各係争年分の所得について不動産仲介業収入が除外されていると疑わざるを得ない状況であった。
2 本件各係争年分の原告のホテル業に係る収入金額についての推計(以下「本件推計」という。)の必要性及び合理性
(一) 本件推計の必要性
原告は、前記Ⅰ(三)のとおりホテル業に係る売上金額を除外していたが、原告は、ホテル業に係る収入を把握するために最も的確な資料と考えられる予約表及び宿泊カード等の原始記録のほとんど全てを破棄し、記帳の基となった帳票類の保存もしておらず、更に、旅館業法六条一項により備え付けを義務づけられている宿泊者名簿の提示もしないことから、収入金額の算出が不可能であった。そのため、被告は、原告のホテル業に係る収入金額を推計により算定せざるを得なかったものである。
(二) 本件推計の合理性
(1) 本件ホテル宿泊料収入の推計
原告の本件各係争年分に係る本件ホテル宿泊料収入金額は、本件各係争年分とも、シーツの使用量から推計したものであり、その計算過程は別紙5及び6のとおりである。
被告が原告の宿泊料収入を推計するにあたりシーツの使用量を宿泊者数として採用したのは、次の理由による。
被告が原告の調査に着手したのは、平成三年一〇月八日であり、その後は宿泊者数は正当に計上されていると推認されるところ、平成三年一〇月一日から同年一二月三一日までの宿泊者数は二七五三人である。そして、この期間のシーツのリース枚数は、同年一〇月が一九九〇枚、同年一一月が二二四〇枚、同年一二月が七九〇枚の合計五〇二〇枚であり、シーツは毎日使用するものであるから、右リース枚数がこの期間に使用されたシーツの枚数であると推認されるところ、本件ホテルでは宿泊客一人でシーツ二枚(上下各一枚)を使用するので、シーツの使用枚数から宿泊者数を推計すると二五一〇人となる。このように、実際の宿泊者数がシーツの使用枚数から推計される宿泊者数とほぼ一致し、かつ、推計による宿泊者数が実際の宿泊者数より過大に算出される可能性が極めて低く原告に不利益とならないため、合理性があると判断したものである。
(2) 電話使用料収入の推計
原告は、毎日の宿泊料収入及び電話の使用料を一括してホテル収入として帳簿に記載していたが、ホテル宿泊料収入と同様に、売上除外した宿泊者に係る電話使用料収入も計上しておらず、前記(1)のとおり宿泊料収入を別計算としたため、前記(1)により推計した宿泊者数に、平成三年一〇月一日から同年一二月三一日までの宿泊者に係る電話使用料金をもとに一人当たりの使用料を算出して、本件各係争年分の電話使用料収入を計算したものであり、その計算過程は別紙7のとおりである。
3 本件各更正(一)の適法性
(一) 本件各係争年分の事業所得金額
原告は、ホテル業及び不動産仲介業を行っているが、更正による本件各係争年分の事業所得金額は次のとおりである。
(1) 昭和六三年分の事業所得金額
昭和六三年分の売上等除外金額は一四五八万一七三五円であり、その内訳は次のとおりである。
<1> 本件ホテルに係る売上除外金額が七七三万〇〇五〇円であると認められたため、この金額を売上金額に加算した。
<2> 不動産仲介料収入三六万二〇〇〇円が除外されていたため、この金額を売上金額に加算した。
<3> 不動産取引に係る売上原価六三万三六八五円が仮装計上されていたため、この金額を売上原価から減算した。
<4> 原告は、昭和六三年分の確定申告にあたり、青色専従者給与として美代子及び令子に対し合計六九〇万六〇〇〇円を支払ったとして経費に算入していたが(所得税法五七条一項)、本件青色取消処分により、この支払金額が経費に算入できなくなるため(同条三項)、この金額を経費から減算した。
<5> 美代子及び令子は原告の事業に従事しているが、本件青色取消処分により事業専従者となるため(昭和六三年法一〇九号改正前の同法五七条三項一号)、両人に対する事業専従者控除として一〇五万円を追認した。
原告は、昭和六三年分の確定申告で事業所得の金額を二五一万四五五五円の損失として申告していたが、前記<1>ないし<4>を加算した金額から前記<5>を減算した一四五八万一七三五円を確定申告に加算することになるため、昭和六三年分の事業所得の金額は一二〇六万七一八〇円となる。
(2) 平成元年分の事業所得金額
平成元年分の売上等除外金額は一四〇五万二八五四円で、その内訳は次のとおりである。
<1> 本件ホテルに係る売上除外金額が七一一万二四二五円であると認められたため、この金額を売上金額に加算した。
<2> ホテルの雑収入に計上すべき未収家賃二五万七五〇〇円が除外されていたため、この金額を売上金額に加算した。
<3> 不動産仲介料収入五六万二〇〇〇円が除外されていたため、この金額を売上金額に加算した。
<4> 不動産取引に係る売上原価が二二六万二二ハ三円過大に計上されていたため、この金額を売上原価から減算した。
<5> 原告は、平成元年分の確定申告にあたり、青色専従者給与として美代子及び令子に対し合計七五一万四三六四円を支払ったとして経費に算入していたが、本件青色取消処分を行ったことにより、この支払金額が経費に算入できなくなるため、この金額を経費から減算した。
<6> 売上原価の計算に誤りがあったため二三八万五七一八円が計上漏れとなっていたため、この金額を追認した。
<7> 美代子及び令子は原告の事業に従事しているが、本件青色取消処分により事業専従者(所得税法五七条三項一号)となるため、両人に対する事業専従者控除として一二七万円を追認した。
原告は、平成元年分の確定申告で事業所得の金額を七八一万一九三九円として申告していたが、前記<1>ないし<5>を加算した金額から前記<6>及び<7>を減算した一四〇五万二八五四円を確定申告額に加算することとなるため、平成元年分の事業所得の金額は二一八六万四七九三円となる。
(3) 平成二年分の事業所得金額
平成二年分の売上等除外金額は一五八九万五九五一円で、その内訳は次のとおりである。
<1> 本件ホテルに係る売上除外金額が五二七万三八五一円であると認められたため、この金額を売上金額に加算した。
<2> 原告は、本件ホテル内で営業していたレストランの借家人に対し、敷金を全額返済したように帳簿に記載していたが、未収家賃、水道光熱費等を差し引いて返済していたので、この差額三四八万七八〇〇円を雑収入漏れとして加算した。
<3> 不動産仲介料収入五二万円が除外されていたため、この金額を売上金額に加算した。
<4> 原告は、平成二年分の確定申告にあたり、青色専従者給与として美代子及び令子に対し合計七八八万四三〇〇円を支払ったとして、経費に算入していたが、本件青色取消処分を行ったことにより、この支払金額が経費に算入できなくなるため、この金額を経費から減算した。
<5> 美代子及び令子は、原告の事業に従事しているが、本件青色取消処分により事業専従者となるため、両人に対する事業専従者控除として一二七万円を追認した。
原告は、平成二年分の確定申告で事業所得の金額を一八八万八〇四四円として申告していたが、前記<1>ないし<4>を加算した金額から前記<5>を減算した一五八九万五九五一円を確定申告額に加算することとなるため、平成二年分の事業所得の金額は一七七八万三九九五円となる。
(4) 平成三年分の事業所得金額
平成三年分の売上等除外金額は八三〇万七三二九円で、その内訳は次のとおりである。
<1> 本件ホテルに係る売上除外金額が六九万〇〇一五円であると認められたため、この金額を売上金額に加算した。
<2> 不動産仲介料収入四一万二五〇〇円が除外されていたため、この金額を売上金額に加算した。
<3> 原告は、平成三年分の確定申告にあたり青色専従者給与として美代子及び令子に対し合計八四七万四八一四円を支払ったとして経費に算入していたが、本件青色取消処分を行ったことにより、この支払金額が経費に算入できなくなるため、この金額を経費から減算した。
<4> 美代子及び令子は、原告の事業に従事しているが、本件青色取消処分により事業専従者となるため、両人に対する事業専従者控除として一二七万円を追認した。
原告は、平成三年分の確定申告で事業所得の金額を二九三万二七三三円の損失として申告していたが、前記<1>ないし<3>を加算した金額から前記<4>を減算した八三〇万七三二九円を確定申告額に加算することとなるため、平成三年分の事業所得の金額は五三七万四五九六円となる。
(二) 本件各係争年分の不動産所得の金額
(1) 昭和六三年分不動産所得の金額
原告は、昭和六三年分の確定申告で不動産所得の金額を一九一万六七四三円として申告していたが、本件青色取消処分を行ったことにより青色申告控除一〇万円が控除できなくなり、更に、所得税法九七条(昭和六三年法一〇九号改正前のもの)が適用され、美代子の不動産所得金額二一九万〇四七〇円が加算されることとなるから、原告の不動産所得の金額は四二〇万七二一三円となる。
(2) 平成元年分ないし平成三年分不動産所得の金額
原告は、平成元年分不動産所得の金額を二三四万六三八九円、平成二年分不動産所得の金額を二〇六万五二五〇円、平成三年分不動産所得の金額を二一九万六八七九円であるとしてそれぞれ申告していたが、本件青色取消処分を行ったことにより、青色申告控除一〇万円が控除できなくなるため、各年分ともこの金額を加算した金額が各年分の不動産所得の金額となる。
(三) 本件各係争年分のその他の所得金額等
前記(一)及び(二)の他に、総合課税に係るその他の所得金額として、平成元年分について雑所得金額四〇万五五〇〇円が認められる。
(四) 本件各係争年分の土地に係る事業所得等の金額(以下「土地等の事業所得金額」という。)
(1) 昭和六三年分
原告は、昭和六三年分の土地等の事業所得金額を一六二万五一四九円であるとして申告していたが、取得費の架空、仮装計上額が八一万四三一五円あり、この金額を売上原価から減算することとなるため、昭和六三年分の土地等の事業所得金額は二四三万九四六四円となる。
(2) 平成元年分
原告は、平成元年分の土地等の事業所得金額を八七七万九〇二〇円であるとして申告していたが、売却金額の計算誤り二三八万五七一八円を売上金額に加算し、売上原価に係る架空、仮装計上額七二七万七七一七円を売上原価から減算することとなるから、平成元年分の土地等の事業所得金額は、一八四四万二四五五円となる。
(3) 平成二年分
原告は、平成二年分の土地等の事業所得金額を二〇〇三万八六六二円であるとして申告していたが、売上原価に係る架空、仮装計上額五七六万三〇〇〇円を売上原価から減算することとなるから、平成二年分の土地等の事業所得金額は、これらの金額を加算した二五八〇万一六六二円となる。
(4) 平成三年分
平成三年分の土地等の事業所得金額には誤りがなかったため申告額一〇九万四〇〇四円が平成三年分の土地等の事業所得金額となるが、短期譲渡所得における損失額三〇万五〇一七円を差し引くと(所得税法六九条、租税特別措置法二八条の四第六項二号)七八万八九八七円となる。
(五) 前記(一)ないし(四)によれば、被告が本件訴訟において主張する原告の本件各係争年分の総所得金額及び土地等の事業所得金額は、本件所得税の更正処分等における金額(ただし審査裁決後のもの)と同額であるから、本件各更正(一)は適法である。
4 本件各更正(二)の適法性
(一) 平成元年課税期間については、消費税の課税期間が平成元年四月一日から同年一二月三一日までであることから、同期間の宿泊料収入は別紙5の4のとおり三七六三万八八三二円となり、同様に電話使用料収入については、右期間の宿泊人員七六七二名に一人当たりの電話使用料一九三円を乗じた額である一四八万〇六九六円となる。その結果、平成元年課税期間に係る課税売上高は別紙8のとおり、ホテル業に係るその他の収入、不動産仲介料収入及び不動産賃貸収入を加算した一億一五一七万一二七〇円となり、課税標準額は、その金額を一・〇三で除した一億一一八一万六〇〇〇円となる。
(二) なお、平成二年課税期間及び平成三年課税期間にかかる課税標準額は所得税の課税期間と同じであるから、課税標準額は別紙8のとおりとなる。
(三) これらの金額は、いずれも本件消費税の更正処分等における金額(ただし審査裁決後のもの)と同額であるから、本件各更正(二)は適法である。
5 本件賦課決定(一)及び(二)の適法性
本件各更正(一)及び(二)はいずれも適法であり、これに基づいて本件賦課決定(一)及び(二)が行われたのであるから、本件賦課決定(一)及び(二)は適法である。
三 原告の主張
1 推計の必要性の不存在
推計の必要性が認められる要件としては、<1>帳簿書類その他の資料を備え付けていない場合、<2>帳簿書類の記載内容が不正確で信頼性が乏しい場合、<3>納税者が課税庁の調査に非協力的な態度をとったために直接資料を入手できない場合のいずれかの事情により所得金額を把握できなかったときとされている。
被告は、本件各係争年分の原告の帳簿書類を無視して、推計によって売上除外金額を認定しているが、原告の帳簿書類は、予約表、宿泊カード及び収入日報に基づいて作成されており、平成三年一〇月八日及び九日の調査当時、これらが存在しなかったにすぎないのである。調査官らの調査に対して、美代子が収入日報及び予約表以外の帳簿類を提示しようとしなかった事実はない。また、被告は、平成三年一〇月一日から同月八日までの極めて短期間の収入日報と同月一日から同月七日までの予約表の照合により、一〇名について宿泊者数と収入日報に齟齬があったことから、昭和六三年以降の収入日報と現金出納帳は全て不正確であり、したがって、これを基にした総勘定元帳も不正確であり売上を除外しているとして本件推計を行っているが、これは極めて不当であり、前記推計の必要性の三要件に到底該当せず、帳簿による実額計算の本則によるべきである。
2 推計の合理性の不存在
本件ホテルの施設は、シングル一五室、ツイン二五室、和室(シングル)二室となっており、ツインが多数であることから、一人の宿泊客にシングル料金でツインを割り当てることが常態化しており、そのような場合、宿泊客はほとんどの場合、何らかの形で他のベッドも使用するので、ツインの一人宿泊客で四枚のシーツを汚損してこれを取り替える必要があり、シーツの納品枚数の二分の一を宿泊者数と認定して行った本件推計の方法には合理性がない。確かに、平成三年一〇月一日から同年一二月末日までの間のシーツ納品枚数と宿泊客数との対比では、シーツの納品枚数の二分の一を宿泊者数とすることは実数を超えないとしても、それは年間のうち一〇月から一二月までという特異な時季の、しかも、三か月という短い期間であり、その間の数字をもって昭和六三年から平成三年までの四年間を一律に推計することは実態とかけ離れたものとならざるを得ず、到底合理性があるとはいえない。
3 所得の実額
(一) 原告の本件各係争年分のホテル業に係る事業所得の金額
(1) 昭和六三年分
<1> 収入金額合計 五〇八〇万九七九二円
(内訳)
売上 四三〇二万二八七二円
雑収入 二九七万七一七〇円
家賃収入 三〇〇万〇〇〇〇円
雑売上 一八〇万九七五〇円
<2> 売上原価及び経費合計 四五〇一万七三四六円
(内訳)
売上原価 一二七万一八八九円
必要経費 四〇八八万九四五七円
専従者控除 二八五万六〇〇〇円
<3> 所得金額(<1>―<2>) 五七九万二四四六円
(2) 平成元年分
<1> 収入金額合計 五〇八四万〇二九八円
(内訳)
売上 四四四五万九七九〇円
雑収入 一九七万八七二八円
家賃収入 二八一万〇〇〇〇円
雑売上 一五九万一七八〇円
<2> 売上原価及び経費合計 四三五四万五四五六円
(内訳)
売上原価 一一三万六八八九円
必要経費 三九四三万四二〇三円
専従者控除 二九七万四三六四円
<3> 所得金額(<1>―<2>) 七二九万四八四二円
(3) 平成二年分
<1> 収入金額合計 六四三七万一四七三円
(内訳)
売上 五一一三万八四八八円
雑収入 一七二万二一二五円
レストラン 九六七万三五九〇円
雑売上 一八三万七二七〇円
<2> 売上原価及び必要経費 五八五六万八九五五円
(内訳)
売上原価 四六三万一五三八円
必要経費 五〇八四万六四四七円
専従者控除 三〇九万〇九七〇円
<3> 所得金額(<1>―<2>) 五八〇万二五一八円
(4) 平成三年分
<1> 収入金額合計 五五二〇万〇四一五円
(内訳)
売上 四七九三万四八二〇円
雑収入 一六一万一四〇五円
家賃収入 一八四万八〇〇〇円
レストラン 二二五万九九八〇円
雑売上 一五四万六二一〇円
<2> 売上原価及び必要経費 四六六四万七六九八円
(内訳)
売上原価 一九七万三六三八円
必要経費 四一二七万九二四六円
専従者控除 三三九万四八一四円
<3> 所得金額(<1>―<2>) 八五五万二七一七円
(二) ホテル業に係る事業所得金額以外の所得金額について
ホテル業に係る事業所得金額以外の所得金額についての主張はない。
(三) 消費税について
本件各課税期間中の消費税の課税標準は、右期間中の所得税の課税の基礎となった事実をもとに認定されるものであるところ、被告の主張する事実の認定には誤りがある。
4 以上のとおりであるから、本件各更正(一)には、原告の所得を過大に認定した違法があり、本件各更正(二)には、原告の課税標準を過大に認定した違法があり、本件各更正(一)及び(二)を前提とする本件各賦課決定(一)及び(二)も違法であるから、原告は本件課税処分の取消しを求める。
四 争点
1 本件各更正(一)及び(二)の適法性
2 本件各賦課決定(一)及び(二)の適法性
第三当裁判所の判断
一 争点1(本件各更正(一)及び(二)の適法性)について
1 本件調査の経緯について
争いのない事実並びに証拠(各項に掲げるもの)及び弁論の全趣旨によれば、以下の事実が認められる。
(一) 河野上席調査官他一名の熊本東税務署の調査官らは、本件調査のため、平成三年一〇月八日、不動産仲介業の事務所を兼ねている原告方に赴き、同所において、原告の妻で青色事業専従者である美代子に対し、不動産仲介業に関する帳簿書類の提示など本件調査についての協力を求め、また、原田上席調査官他一名の同税務署の調査官らは、同日、本件ホテルに赴き、同所において原告の長女であり、かつ青色事業専従者である令子に会って原告のホテル業に関する帳簿書類の提示など本件調査についての協力を求めた。しかしながら、美代子及び令子からはいずれも帳簿書類の提示は受けられず、調査官らは、令子から原告の事業の概況を聴取したのみで帰署した。(弁論の全趣旨)
(二) 調査官らは、同月九日原告方へ赴いて原告、美代子及び田中一隆税理士に会い、原告のホテル業及び不動産仲介業の取引に関して作成された書類並びに原告の青色確定申告の基になった帳簿の提示を求めたところ、美代子は、保存している帳票類は現金出納簿、総勘定元帳、入出金伝票及び領収証綴りのみであり、請求書及び納品書等は保存していない旨申し立てた。また、美代子は、本件ホテルの収入日報及び予約表等は毎日作成するが、右調査日現在、保存しているのは平成三年一〇月一日以降のもののみであり、予約カードや部屋割表は全く保存していない旨申し立てた。(弁論の全趣旨)
そして、原告は、調査官らに対し保存していると述べた期間の収入日報と予約表は提出したものの、それ以外の帳簿類は提示しなかった。(原告本人)
(三) 調査官らにおいて、本件ホテルの収入に関して提示された平成三年一〇月一日から同月一八日までの収入日報と同月一日から同月七日までの予約表とを照合したところ、予約表に氏名が掲載されていても、収入日報にはその氏名や宿泊金額の記載がないものは、別紙3のとおり同月一日が四名、同月二日が八名、同月三日が八名、同月四日が五名、同月五日が六名であって、右合計は三一名にのぼった。(乙一、二)
調査官らは、右三一名について、氏名等の記載に基づいて連絡を取り、それぞれ本件ホテル使用の事実の有無を確認したところ、実際に本件ホテルに宿泊していたのに収入日報に計上されていないものは、別紙4のとおり同月一日が一名(弁論の全趣旨)、同月二日が二名(乙四、五の一及び二、六の一及び二)、同月三日が三名(乙七の一ないし四)、同月四日が二名、同月五日が二名(乙八の一ないし三)であって、合計一〇名については本件ホテルの宿泊料が正当に売上げに計上されていない事実が判明した。
(四) また、原告の不動産仲介業についても、アパートの入居者について調査検討をしてみたところ、本件各係争年分ともに仲介手数料収入の計上漏れ等があり、更に、不動産売買については、取得原価を算出するにあたり、領収証の改ざん、架空の人物を使っての領収証等の発行による造成費及び立退料等の水増し計上が行われている事実が判明した。(弁論の全趣旨)
(五) そこで、被告は、本件各係争年分の所得税の青色確定申告には売上除外等が認められ、所得税法一五〇条一項三号所定の青色承認取消し事由、国税通則法二四条、二七条所定の更正の事由、同法六五条所定の過少申告加算税の賦課事由及び同法六八条所定の重加算税の賦課事由が存在するとして、平成四年一二月一一日付けで、本件青色取消処分をするとともに、同月一八日付けで本件所得税の更正処分等を行った。(争いがない)
また、被告は、本件各課税期間分の消費税の確定申告には売上除外等が認められ、国税通則法二四条、二七条所定の更正の事由及び同法六八条所定の重加算税の賦課事由が存在するとして、平成四年一二月一八日付けで本件消費税の更正処分等を行った。(争いがない)
(六) なお、被告は、本件調査の過程で、原告から平成三年一〇月一日から平成三年一二月三一日までの期間中の収入日報(甲六の一部)の提出を受けた。
2 本件推計の必要性について
推計課税は、帳簿書類の備え付けがないか、あっても記載が不正確であるなどのため実額計算が不可能な場合に許されるものであるところ、前記一1(二)で認定したとおり、平成三年一〇月九日に行われた本件調査に際して、原告の妻である美代子は、本件ホテルに関する帳簿書類のうち、保存しているものは現金出納簿、総勘定元帳、入出金伝票及び領収証綴りのみである旨申し立て、また、本件ホテルにかかる収入を把握するために最も的確な資料である予約カード、予約表、部屋割表及び収入日報のうち、原告が、同日調査官らに提出したのは、平成三年一〇月一日から同月八日までの収入日報と、同月一日から同月七日までの予約表のみであったことが認められ、本件調査の時点で、原告には本件各係争年分の収支を明らかにする帳簿書類が存在せず、被告において帳簿書類に基づき所得の実額を計算することができなかったことは明らかであるから、原告の本件ホテルにかかる本件各係争年分の事業所得の金額については、被告が本件各更正(一)及び(二)を行うに際して推計の必要性があったというべきである。
3 本件推計の合理性について
(一) 本件各係争年分の本件ホテルの宿泊料収入の推計について
弁論の全趣旨によれば、被告は、本件各係争年分の本件ホテルにかかる収入の推計を行うにあたって、まず、(1)別紙5の1の表のとおり平成三年一〇月一日から同年一二月三一日までの収入日報の記載(甲六、別紙6参照)をもとに、右期間中の本件ホテルの規定料金による宿泊者一人当たりの宿泊料金及び実収入金額による宿泊者一人当たりの宿泊料金をそれぞれ算出し、これらの金額に基づいて規定料金に対する実額収入の割合、すなわち宿泊料金の値引率(以下「調整率」という。)を算出したうえ、(2)別紙5の2の表のとおり昭和六三年一月から平成元年三月までの本件ホテルの規定料金及び平成元年四月から平成三年四月までの規定料金に基づいて計算した場合の一人当たりの宿泊料金に、それぞれ調整率を乗じて調整後の一人当たりの宿泊料金を算出し(なお、平成三年五月から同年一二月までの規定料金は、別紙5の1の表の「<3>規定料金」欄に記載された金額と同額であるから、右期間中の1人当たりの宿泊料金は同表の「<7>実績による1人当たりの宿泊料金」の金額と同額である。)、(3)別紙5の3の表のとおり原告が本件ホテルにおいて使用していたシーツの枚数の二分の一を宿泊者数として、<4>別紙5の4の表のとおり本件各係争年分の宿泊料収入を算出したことが認められる。
そこで、被告の採用した右の推計方法の合理性について検討する。
まず、被告は、平成三年一〇月一日から同年一二月三一日までの三か月間の収入日報(甲六の一部)の記載をもとに、調整率及び本件各係争年分の一人当たりの宿泊料金を算出しているが(別紙5の1及び2の表参照)、被告が原告に対する本件調査を開始したのが同年一〇月八日であったことからすれば、少なくとも、同日以降の収入日報の記載は実績に基づいて正確に記載されたものと推認することができるところ、右期間中の宿泊者数は収入日報の記載によれば二七五三人である(甲六)。これに対して、右期間中の本件ホテルにおけるシーツのリース枚数は、同年一〇月が一九九〇枚、同年一一月が二二四〇枚、同年一二月が七九〇枚(乙三)で合計五〇二〇枚であり、右リース枚数の合計が右期間中に本件ホテルで使用されたシーツの枚数であると推認することができるところ、シーツはホテルの宿泊者が毎日必ず使用するものであると認められ、本件ホテルでは宿泊者一人でシーツ二枚(上下各一枚)を使用するというのであるから(弁論の全趣旨)、宿泊者数はシーツの使用枚数の二分の一である二五一〇人であると推計することができる。
以上によれば、シーツの使用枚数から推計される宿泊者数は、収入日報の記載による実際の宿泊者数を超えず、かつこれに近似しているので、推計による宿泊者数が実際の宿泊者数より過大に算出される可能性は低いということができ、本件ホテルの宿泊者数についての推計の方法には十分な合理性があるということができる。
そして、本件ホテルの一人当たりの宿泊料金についても、平成三年一〇月一日から同年一二月三一日までの三か月間の実績をもとに算定したものであり、本件調査の段階で、原告の本件各係争年分の本件ホテルにかかる収入金額を把握するための的確な資料として被告が入手し得たものは、右期間中の収入日報のみであったことを考慮すれば、右算定方法はそれなりの合理性を有しているといえる。
よって、被告が採用した本件各係争年分の本件ホテルの宿泊料収入の推計方法には合理性があるということができる。
そして、右推計によると、本件ホテルの宿泊料収入は、別紙5の4の表のとおり、昭和六三年分が五〇四〇万六〇四八円、平成元年分が四九四三万一一五六円、平成二年分が五四四一万二四四六円、平成三年分が四八四〇万九七六八円となる。
(二) 本件各係争年分の本件ホテルにおける電話使用料収入の推計について
原告は、本件ホテルにおける電話使用料の合計を収入日報の「電話料」の欄に記載しているが(甲四ないし六、乙一)、本件各係争年分の電話使用料の金額の正確性を担保すべき資料が存在せず、本件係争年分の本件ホテルの宿泊料収入の算出にあたって売上除外した宿泊者にかかる電話使用料も本件ホテルの収入として計上されていないことが十分考えられるのであるから、別紙7のとおり、前記(一)で認定した方法により推計した本件各係争年分の宿泊者数に、平成三年一〇月一日から同年一二月三一日までの収入日報の「電話料」欄に記載された金額の合計に基づいて算出した一人当たりの電話使用料を乗じて、本件各係争年分の電話使用料収入を推計することには合理性があるということができる。
そして、右推計によると、別紙7の2の表のとおり、本件ホテルにおける電話使用料収入は、昭和六三年分が二一三万九九八四円、平成元年分が一九八万一三三八円、平成二年分が二一四万〇五六三円、平成三年分が一七六万五五六四円となる。
(三) 以上によれば、本件推計には合理性があると認められる。
4 原告の実額の主張について
(一) 本件推計は、原告の本件各係争年分の本件ホテルの宿泊料収入及び電話使用料収入を推計するものであり、右推計の結果を覆して原告の事業所得のうち、本件ホテルにかかる所得の実額を把握するためには、本件各係争年分の本件ホテルの売上金額を実額によって把握することが必要となる。
(二) 原告は、本件各係争年分の売上金額を裏付ける資料として、本件係争年分のうち、昭和六三年分、平成元年分及び平成三年分の収入日報(甲四ないし六)を提出するところ(なお平成二年分については所在不明のため提出されていない)、証人長尾謙昌及び同長尾令子によれば、昭和六三年ないし平成三年分の収入日報は、主に令子が作成しており、その作成方法は次のとおりである。
(1) 本件ホテルへの宿泊の申込みがあった場合、本件ホテルの従業員が予約表(甲八参照)で申込み者の宿泊予定日の空室状況を確認し、空室が有れば予約カード(甲七参照)に予約者の氏名等の必要事項を記入したうえで、予約者の氏名等を予約表に記入する。
(2) 本件ホテルの従業員は、申込み者の宿泊予定日の三日くらい前に、予約カードを確認のうえ、部屋割表(甲九参照)に予約者の氏名等を転記する。
(3) 予約者が宿泊当日チェックインする際には、宿泊カード(甲一〇の一及び二参照)に住所氏名等を記入させたうえ、同人から宿泊料を受けとるのと引き換えに部屋の鍵を渡す。いわゆる飛び込みの宿泊者については、宿泊カードに住所氏名等を記入させたうえで、本件ホテルの従業員が部屋割表に宿泊者の氏名等を記入し、宿泊料を受けとるのと引き換えに部屋の鍵を渡す。宿泊料については、主に現金で入金されるが、例外的に売掛金が発生することもある。
(4) 宿泊客がチェックインして宿泊料が支払われれば、部屋割表の部屋番号の部分を青色ペンで塗りつぶし、売掛金が生じた場合には鉛筆で部屋番号を丸で囲むなどする。
(5) 本件ホテルの宿泊料収入は、午前八時三〇分から勤務する者が、午前〇時から午前九時までの勤務の者から引継ぎを受けたうえで、部屋割表の記載に基づいて収入日報に記載する。
(6) 本件ホテルの電話使用料については、フロントの交換台に部屋番号を入力すると当該部屋で使用した電話料金が表示されるので、これを収入日報の「電話料」の欄に記載する。
(三) しかしながら、本件調査の際に、調査官らが原告から被告に提出された平成三年一〇月一日から同月八日までの収入日報(乙一)及び同月一日から同月七日までの予約表(乙二)とを照合したうえ、更に調査を行った結果によれば、前記一1(三)で認定したとおり、実際に本件ホテルに宿泊していたのに収入日報に計上されていないものは、同月一日が一名、同月二日が二名、同月三日が三名、同月四日が二名、同月五日が二名の合計一〇名にのぼり、これらの者については本件ホテルの宿泊料収入が正当に売上げに計上されておらず、右期間中の収入日報の記載には、本件ホテルの宿泊料収入の計上漏れが無視できないほどの頻度で存在することが認められるうえ、本件ホテルの電話使用料についても、宿泊料収入について売上除外が認められる以上、宿泊料収入の算出にあたって売上除外した宿泊者にかかる電話使用料も本件ホテルの収入として計上されていないことが十分考えられるのであるから、原告が提出した昭和六三年分、平成元年分及び平成三年分(ただし本件調査以前のもの)の各収入日報(甲四ないし六)の記載の正確性には疑問があり、右収入日報の記載から、右各年分の本件ホテルの売上の実額を的確に把握することはできないといわざるを得ない。
また、原告は、本件ホテルの平成二年分の売上金額を裏付ける資料として、同年分の収入日報は存在しないとしたうえで、同年一月四日から同年一二月三一日までの入金伝票(甲一二の一ないし三六五)、定期性総合口座通帳計五冊(甲一三の一ないし一〇)、振替伝票三二通(甲一五の一ないし三二)を提出するが、証人長尾美代子によれば、本件ホテルの売上金は、本件ホテルの従業員が収入日報の「現金在高」欄に記載された金額を本件ホテルのフロントに備え置かれている普通預金入金票(甲一四)に記載し、美代子が三日に一回くらいの割合で金融機関に持参して入金するという方法を取っていたというのであるところ、先に認定したとおり、収入日報の記載自体の正確性に疑問があることからすれば、平成二年分の本件ホテルの売上について原告が提出する資料によっては、本件ホテルの同年分の売上の全てを把握することはできないといわざるを得ない。
(四) 以上によれば、本件係争年分の原告の本件ホテルにかかる事業所得の金額を実額によって計算することはできないというべきであり、原告の実額主張は採用することができない。
5 本件各更正(一)の適法性について
(一) 本件各係争年分の事業所得金額について
弁論の全趣旨によれば、被告は、本件推計に基づき、前記本件各係争年分の原告のホテル業及び不動産仲介業にかかる事業所得金額を第二、二3(一)のとおり算定したことが認められる。
そうすると、昭和六三年分の事業所得金額は一二〇六万七一八〇円、平成元年分の事業所得金額は二一八六万四七九三円、平成二年分の事業所得金額は一七七八万三九九五円、平成三年分の事業所得金額は五三七万四五九六円となる。
(二) 本件各係争年分の不動産所得の金額について
弁論の全趣旨によれば、被告は、本件各係争年分の原告の不動産所得の金額を前記第二、二3(二)のとおり算定したことが認められる。
そうすると、本件各係争年分の不動産所得の金額は、昭和六三年分が四二〇万七二一三円、平成元年分が二四四万六三八九円、平成二年分が二一六万五二五〇円、平成三年分が二二九万六八七九円となる。
(三) 本件各係争年分のその他の所得金額等について
弁論の全趣旨によれば、右(一)、(二)の他に、総合課税に係るその他の所得金額として、平成元年分について雑所得金額四〇万五五〇〇円が認められる。
そうすると、本件各係争年分の総所得金額は、右(一)、(二)及び(三)を加算した金額となり、昭和六三年分が一六二七万四三九三円、平成元年分が二四七一万六六ハ二円、平成二年分が一九九四万九二四五円、平成三年分が七六七万一四七五円となる。
(四) 本件各係争年分の土地等の事業所得金額について
弁論の全趣旨によれば、被告は、本件各係争年分の原告の土地等の事業所得金額を前記第二、二3(四)のとおり算定したことが認められる。
そうすると、本件各係争年分の土地等の事業所得金額は、昭和六三年分が二四三万九四六四円、平成元年分が一八四四万二四五五円、平成二年分が二五八〇万一六六二円、平成三年分が七八万八九八七円となる。
(五) 以上のとおりであって、被告が本件訴訟において主張する原告の本件各係争年分の総所得金額及び土地等の事業所得金額は、別紙1の本件所得税の更正処分等における金額(ただし審査裁決後のもの)と同額であるから、本件各更正(一)は適法であるということができる。
6 本件各更正(二)の適法性について
(一) 弁論の全趣旨によれば、本件各課税期間における消費税の課税標準額は、第二、二4のとおりであることが認められる。そうすると、別紙8のとおり、平成元年課税期間分が一億一一八一万六〇〇〇円、平成二年課税期間分が九五一九万円、平成三年課税期間分が六七四八万二〇〇〇円となる。
(二) これらの金額は、いずれも別紙2の本件消費税の更正処分等における金額(ただし審査裁決後のもの)と同額であるから、本件各更正(二)は適法であると認めることができる。
三 争点2(本件各賦課決定(一)及び(二)の適法性)について
本件各更正(一)及び(二)が適法であることは前示のとおりであるから、本件各更正(一)を前提として、国税通則法六五条一項及び二項に基づき過少申告加算税の、同法六八条一項に基づき重加算税の、それぞれ賦課を行った本件各賦課決定(一)は適法であり、また、本件各更正(二)を前提として、国税通則法六八条一項に基づき重加算税の賦課を行った本件各賦課決定(二)は適法である。
四 結論
以上によれば、原告の請求はいずれも理由がないからこれを棄却することとし、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 杉山正士 裁判官 足立謙三 裁判官 金地香枝)
別紙1 課税の経緯表
(所得税)
一 昭和六三年分
<省略>
(更正処分及び審査裁決に係る総所得金額には、所得税法九七条の適用により長尾美代子の不動産所得の金額二一九万四七〇円を含む。
なお、確定申告に係る総所得金額、土地等の事業所得の金額は、損益通算後の金額である。)
二 平成元年分
<省略>
三 平成二年分
<省略>
四 平成三年分
<省略>
(なお、確定申告に係る総所得金額、土地等の事業所得の金額は、損益通算後の金額である。)
別紙2
(消費税)
一 平成元年分
<省略>
二 平成二年分
<省略>
三 平成三年分
<省略>
別紙3
氏名が予約台帳に記載されていても
収入日報には記載されていないもの
<省略>
別紙4
実際宿泊しているが収入日報にないもの
<省略>
別紙5
宿泊収入の計算書
1 規定料金に対する実額収入の割合(調整率)
宿泊料金の値引きがあり、平成3年10月1日から12月31日までの収入日報(実績)より、次表のとおり値引割合(調整率)を算出した。
<省略>
2 1の調整率により割り戻した一人当たりの宿泊料金
昭和63年1月から平成3年4月までの一人当たりの宿泊料金を規定料金に従い次表のとおり算出した。
なお、平成3年5月以降の規定料金は、同年10月以降と同額であるため、平成3年5月以降の一人当たりの宿泊料金は上記1の実績による一人当たりの宿泊料金額となる。
<省略>
3 宿泊人員の算定
クリーニング業者のシーツの納入枚数の二分の一(一つのベッドで上下2枚を使用する。)した枚数を宿泊人員とした。
<省略>
4 各年分の宿泊料収入
上記2及び3により、各年分の宿泊料金は次表のとおりとなる。
<省略>
別紙6 収入日報から把握した宿泊関係収入内訳(平成3年10~平成3年12月)
<省略>
別紙7
電話使用料金の計算書
1 一人当たりの電話使用料金
別紙3の平成3年10月から12月までの電話使用料金(10月182,160円、11月162,180円、12月188,040円の合計)532,380円を宿泊者数2,753人で除して、一人当たりの使用料193円を算出した。
2 各年分の電話使用料
<省略>
推計による宿泊料収入及び電話使用料収入と申告額との差額
<省略>
別紙8
消費税課税標準額の計算
<省略>